強制性交等罪とはどのような罪か弁護士が解説

 強制性交等罪は,刑法177条に規定されている犯罪で,13歳以上の者(男性も含む)に対し,暴行・脅迫を用いて「性交等」をした場合に成立する犯罪です。
 「性交等」には,いわゆる男性器を女性器に挿入する性行為のみならず,肛門性交や,口腔性交も含まれます。
 13歳未満の者に対しては,暴行・脅迫を用いなかった場合であっても,「性交等」をしたときに成立します。

刑法改正による変更点

 「強制性交等罪」は以前,「強姦罪」と呼ばれていましたが,2017年の法改正により強姦罪の名称を「強制性交等罪」に変更するとともに,いくつかの点が変更されました。
 1つは,被害者を女性に限っている現在の規定を見直して,性別にかかわらず,被害者になりえることとした点です。現代では,LGBTという言葉に代表されるように,多様な性自認,性志向の在り方が認められるようになってきました。そのことに伴い,意に反する性的な行為を強いられるのは女性に限られないことも認められてきました。そのため,男性が肛門性交や口腔性交の被害を受けた場合にも強制性交等罪の成立が認定できるよう,被害者を女性に限定する点が見直されました。
 また,従来は,対象となる行為が「姦淫」と規定されていたため,肛門性交や口腔性交などの性交類似行為は強姦罪の対象とはならず,法定刑の軽い強制わいせつ罪として取り扱われていましたが,改正により,「姦淫」を「強制性交等」と改め,このような行為を含めることとなりました。

強制性交等罪に関する罪

 「強制性交等」に関する罪として,準強制性交等罪(178条2項),監護者性交等罪(179条2項),強制性交等致死傷罪(181条2項)があります。

 「準強制性交等罪」とは,心神喪失(精神又は意識の障害によって,正常な判断能力を喪失している状態)もしくは抗拒不能(物理的・心理的に抵抗することが著しく困難な状態)に乗じ,又は心神を喪失させ,もしくは抗拒不能にさせて,強制性交等を行った者に成立する犯罪で,強制性交等罪と同じ法定刑が定められています。暴行や脅迫が用いられない類型ではあるものの,心神喪失や抗拒不能という暴行や脅迫を用いなくとも意に反する性交が可能な状態でそうした行為に及ぶ点が悪質であることから,法定刑は強制性交と差がありません。
 「監護者性交等罪」とは,18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者に成立する犯罪で,暴行や脅迫を用いない場合であっても,強制性交等罪と同様に処罰できると規定されています。監護者の典型例は親ですが,法律上の監護権者でなくとも,事実上18歳未満の者を監督し,保護する関係にあれば足りると考えられています。暴行や脅迫はなく,また被害者が心神喪失や抗拒不能の状態でもないケースですが,被害者の立場からすれば自身の監護について強い影響力をする人物の性交を断れば監護を続けてもらえなくなるため,意に反する性交等を断ることは極めて困難なため,強制性交等罪や準強制性交等罪と同様の法定刑とされています。
 また,強制性交等罪や準強制性交等罪,もしくはこれらの未遂罪を犯して,被害者を死傷させた場合には「強制性交等致死傷罪」が成立します。

強制性交等罪の量刑

 強制性交等罪は従来,強姦罪という名前で刑法に規定されていました。2017年の法改正により,強姦罪は強制性交等罪に,準強姦罪は準強制性交等罪に変更され,監護者性交等罪が新設されました。従前の強姦罪・準強姦罪の法定刑は,「三年以上二十年以下の懲役」でしたが,改正後の強制性交等罪,準強制性交等罪,監護者性交等罪の量刑は「五年以上二十年以下の懲役」となりました。また,強制性交等致死傷罪の場合には「無期又は六年以上の懲役」となります。旧強姦罪の場合には「三年以上の懲役」でしたので,厳罰化されました。
 これは,強盗罪の法定刑が「五年以上の懲役」であるところ,「性的自己決定権の侵害という重大な犯罪である強姦罪が,財産犯である強盗罪より軽いというのはおかしいのでは」といった考慮によると考えられます。
 この法定刑の厳罰化は,執行猶予が付くかどうかという点で,被疑者・被告人の側にとっては大きな意味を持ちます。執行猶予は懲役3年以下の懲役刑にしか付けることができません。従来の強姦罪の法定刑の下限は懲役3年でしたので,事案によっては執行猶予を付けることが可能でした。一方で改正後は,強制性交等罪で起訴されて有罪判決を受ける場合,法定刑の下限が5年のため,原則として執行猶予付きの判決を受けることができないことになりました。
 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは,酌量減軽の規定が適用され,法定刑の長期及び短期が2分の1になります(刑法66条,68条3号)。そのため,示談が成立して被害者が重い処罰を求めていないなどの特段の事情があれば,法定刑の下限が懲役2年6月まで下がることになりますので,執行猶予の可能性が出てきます。
 もっとも,執行猶予が付くのはあくまで例外的な場合ですので,重い処罰が予定されている犯罪といえます。

強制性交等で逮捕されるケース

 性行為というのは,お互いの同意の元で行われる限り犯罪ではありません。我々の誰もが,そのような行為をしても良いと考えた相手と行う可能性があるものです。だからこそ,相手に同意がないのに自己の欲求を先行させてしまったり,同意があると誤信してしまったりして問題になる可能性は,我々の身近に潜んでいると言わざるを得ません。
 強制性交等罪で逮捕されるケースには,道端で突然見知らぬ女性を襲ったり,一人暮らしの女性の自宅に侵入して無理やり性交するような,およそ相手方の同意が期待できないような状況で行われる事件もありますが,知人同士の事件や,マッチングアプリなどを通じて出会った男女間の事件,ナンパの流れでラブホテルに行って性行為に及んだ事件なども珍しくありません。
 そして,相手方の性行為に対する明確な同意の意思表示がなければ,こちらが同意があったと考えていたとしても,意思に反して性行為をされたとして相手方が被害届を警察署に提出し,逮捕につながる危険性があります。
 マッチングアプリ等を通じて出会うなどの場合に実名を明かしていなかったとしても,逮捕の可能性はあります。警察が重大な事件であると判断した場合には施設の防犯カメラを確認することや,アプリやサイト等に登録情報を照会することにより本人の特定は可能であるためです。
 また,お酒を飲んだ状態で,加害者から見れば意識や言動ははっきりしており性交に同意してくれていると考えたものの,実は被害者は相当量のお酒を摂取しており,翌日になって性交の際の記憶がはっきりしなかったり記憶が混濁したりした結果,意に反する性交を強いられたと考えて被害届を提出し,逮捕につながるようなケースも珍しくありません。
 性行為に及んだ後,相手方からその行為が嫌であったとか,被害届を提出するなどの連絡があった場合には,速やかに弁護士に相談したうえで今後の対応を検討する必要があります。

強制性交等で逮捕された場合の流れ

 強制性交等で逮捕された場合には,その翌日又は翌々日に検察庁に送致され,検察官の取調べ(弁解録取)を受けます。
 その際,検察官は,被疑者を10日間留置する勾留を裁判所に請求するかどうかを決定します。検察官が勾留請求しない場合には即日釈放されますが,検察官が勾留請求すると,被疑者はその日か翌日に裁判所に行き,裁判官の勾留質問を受けます。裁判官が勾留決定をした場合には,検察官の勾留請求日から数えて10日間,留置施設に留置されることになります。この時,裁判官が勾留請求を却下した場合には,被疑者は釈放されます。
 検察官は,最大20日間の勾留期間のうちに,被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定しなければならず,その決定ができないときは被疑者を釈放しなければなりません。
 このように,逮捕されるとそれだけで長期間勾留される可能性があります。勾留を避け,又は勾留されたとしてもできるだけ速やかに身体拘束を解きたい場合には,弁護士が身柄解放に向けた活動を行うことが必要です。

強制性交等事件での示談の重要性

 強制性交等罪は,被害者の性的自由を侵害したことが処罰の根拠になっています。そのため,性的自由を有する被害者自身が被疑者を許し,刑事処罰を求めない旨を示談によって明らかにした場合,検察官が起訴・不起訴を決めるにあたってはそのことを大きく考慮しますし,起訴された場合に裁判所が量刑を決めるにあたっても重要視します。そのため,強制性交等罪等の性犯罪で逮捕された場合,弁護士のアドバイスの下で早期に被害者に謝罪すると共に,示談・賠償することが重要です。被害者との示談が成立しなければ,不起訴処分の獲得は大変厳しいものになるでしょう。
 ときに被害者は,加害者と顔を合わせたくないとして謝罪を拒否することがあります。その場合には,弁護士が被害者との示談交渉を試みる必要があります。また,謝罪したくても被害者の名前や住所,連絡先がわからない場合もあります。被害者に関するこれらの情報を警察や検察は持っていますが,被害者保護の観点から,弁護士にしか教えてくれません。
 弁護士は,警察や検察を介して被害者の連絡先を教えてもらった場合,早急に被害者とコンタクトを取り,示談の成立を目指します。
 もっとも,強制性交等罪が被害者の性的自由を強く侵害する卑れつな犯罪であり,被害感情が激しい場合が多いことから,示談交渉に当たっては被害者の心情に特別な配慮が必要となります。そこで,性犯罪について豊富な経験と高い専門性を積んだ弁護士に依頼することが示談を成立させるための重要な選択肢となってきます。

示談するメリットとデメリット

 かつて強姦罪は親告罪でしたが,被害者の負担を軽減すべく,2017年の法改正で非親告罪になりました。したがって,告訴等が取り下げられたとしても起訴することは不可能ではありません。これをもって,強制性交等罪(強姦)での示談の重要性は減退した,という意見を耳にすることがあります。
 しかし,被害者の自己決定権を尊重すべきという点,捜査機関・報道機関等の第三者によるセカンドレイプを防止すべきという点は,強姦罪と強制性交等罪では何ら変わりありません。
 したがって,検察が,被害者の望まない起訴をする可能性は低いと言え,実際に強制性交等罪の事案で被害者が被疑者の処罰を望まない旨の示談が成立すれば,不起訴になることがほとんどです。
 これについて,改正直後になされた法務省での報告では「検察としては,制度的な担保を設けず非親告罪化された場合にも,通常は被害者の協力がなければ立証も難しく,被害者が望まなければ起訴をしない方向になると思われる。」と報告されています。
 したがって,今日でも示談を成立させれば不起訴を得ることは十分に可能と言えるでしょう。
 一方,基本的に,示談をすることにデメリットはありません。場合によっては高額な示談金の支払いを余儀なくされますが,実刑判決を免れるためには必要なことです。

強制性交等事件の示談金相場

 示談を成立させるには示談金の支払いが必要になります。特に強制性交等罪の示談金の相場はおおよそ100万円~500万円と広範囲に及びます。事案によっては1000万円を超えることもあります。
 加害者の立場としてはどうしても交渉が不利に流れがちです。しかし,事案によっては加害者を完全には責めきれないケースもあり,交渉次第で示談金を減額させることは十分に可能です。
 例えば,当事者が(元)交際関係にあった,被害者が自ら誘いに応じてラブホテルに向かっている等様々です。経験を積んだ弁護士なら,このような事情を客観的に判断し,示談金を適正額に導くことも可能です。
 また,被害者にとっては,示談をしないということは,検察官が被疑者を起訴した場合には刑事裁判となり,証人として出廷する可能性が出てくることを意味します。今日の刑事裁判では,証人と傍聴席との間,証人と被告人との間の遮蔽措置や,別室からモニタ―に写る形で証言するビデオリンク方式,被害者の特定につながる事項を法廷で明らかにしない措置など,被害者が証人として出廷する場合に被害者を保護する措置が一定の要件の元で利用されます。
 しかしながら,そうであっても刑事裁判の場で自身の被害体験を語ることには想像を絶する苦痛が伴うことは想像に難くなく,示談をして刑事裁判を避けることは被害者にとっても出廷して証言しなくて良いというメリットを伴う場合があります。
 強制性交等罪などの性犯罪の示談交渉においては,こうした示談が被害者側にもたらすメリットも丁寧に説明したうえ,被害者の方の納得を引き出すことが重要です。

強制性交等の成立を争う場合

 相手方が性交時には同意していたのに何らかの事情で感情に変化が生じて被害届を出したり,相手方が性交に同意していなかったのに同意があると誤信して性交に及んだ場合には,強制性交等罪の成立を争うことになります。
 その場合,弁護人は,まずは検察官に対しては強制性交等罪の成立を認めるに足りる証拠が十分でないとして嫌疑不十分を理由とする不起訴を求めることになります。
 もっとも,起訴前の段階では弁護人も被疑者も検察官が収集した証拠を見ることはできません。そのため,検察官が収集した証拠の全容が把握できないまま嫌疑不十分を理由とする不起訴を求めたとしても,検察官に対する訴求力には限界があり,実際にどの程度不起訴の可能性があるかは未知数ということになります。
 そして,被疑者の側は強制性交等罪の成立を争っているにもかかわらず,検察官に証拠が十分であると判断して起訴された場合,日本における刑事裁判の極めて高い有罪率を踏まえると,無罪を主張するとしても有罪を受けて実刑になる高いリスクを抱えて戦わなければならないということになります。
 そのため,否認事件の場合であっても,起訴前に相手方に示談の申入れを行って,不起訴処分の獲得を狙う場合があります。この場合には,被疑者と被害者のお互いの言い分が食い違うことを前提に,被疑者の弁護人と被害者(または被害者代理人弁護士)が話し合うことになります。すなわち,被疑者の側が罪を認めて謝罪をするのではなく,あくまで強制性交等罪は成立しないと考えているが,起訴されて刑事裁判となれば被害者が証人として出廷を余儀なくされる可能性があり,大きな負担となることなどを説明したうえで,被害者としても一定の金銭の支払いによって刑事裁判を回避することに納得できる場合には,その金銭の支払いを条件に被疑者の刑事処罰を望まないこととするという示談を目指します。
 このような示談交渉の方法であれば,仮に示談が成立しなかった場合であっても,被害者に対して罪を認めて謝罪をしようとしたわけでありませんので,起訴された場合には強制性交等罪の成立を争うという一貫した方針に基づいて無罪主張をすることができます。
 その場合には,刑事裁判の豊富な経験と技術を用いて,綿密な証拠の検討や法廷での弁護活動を行うことにより無罪判決の獲得を目指します。
 否認事件において被害者との示談を目指すかどうか,目指すとしてその際の方針をどうするかは,依頼者と弁護士が入念な打ち合わせをして決定することが重要です。
 なお,当事務所では,身に覚えのない性交について旧強姦罪で逮捕・起訴された事件について,無罪判決を獲得した実績があります(横浜地方裁判所川崎支部令和3年3月15日判決,一審で確定)。

まとめ

 強制性交等罪が重い罪であることは言うまでもないことですが,相手の同意を得て行う分には何ら問題のない行為であり,一般市民が突然巻き込まれることが十分にありうる犯罪類型の1つと言えます。
 性的自由を尊重することの重要さを理解して,相手の明確の同意を得ることが大切であることは言うまでもありませんが,万が一強制性交等罪を疑われて刑事事件に巻き込まれた場合には,裁判となれば重い法定刑が待ち受ける事件です。速やかに弁護士に相談してください。

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