準強制性交等で逮捕されたら?弁護士が解説

 飲み会などお酒の席の流れで,酔った女性と性交をした結果,女性から被害届を出されて準強制性交等罪で警察から捜査を受けたという相談が多くあります。
 準強制性交等罪は,暴行や脅迫を用いたいわゆる「レイプ」である強制性交等罪と同じ法定刑が定められていますが,上記のようなお酒の入った状態の性行為のケースであれば,誰しも罪に問われる可能性のある犯罪です。

 どのような場合に強制性交等罪が成立し,刑事事件化するとどうなってしまうのか,弁護士・坂本一誠が解説します。

刑法第178条(準強制わいせつ及び準強制性交等)

 2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

 準強制性交等罪は刑法第178条2項に規定されております。
 準強制性交等罪が成立するのは「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じて性交等をした場合,または人の心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて性交等をした場合」です。
 心神喪失は,精神機能の障害によって正常な判断能力を失っている状態をいいます。例えば,酩酊や,高度の精神病等により被害者がその行為の意味を理解できていない状態にある場合が当てはまります。
 抗拒不能は,心神喪失以外の理由で心理的又は物理的に抵抗が不可能となっている状態,もしくは著しく困難な状態をいいます。例えば,睡眠や錯誤などにより自分の自由な意思に従って行動する能力を失っている状態にある場合が当てはまります。
 性交等は,「性交,肛門性交又は口腔性交」を指します。この点,2017年の法改正前の準強姦罪では「姦淫」という言葉を使っており,また,その対象は「女子」に限定されていましたが,肛門性交,口腔性交についても性交と同様に扱われるようになり,被害者も男女両方に拡大されました。

準強制性交等罪と強制性交等罪の違い

 準強制性交等罪は,心神喪失又は抗拒不能となった人に姦淫や肛門性交,口腔性交等の性交類似行為を行った場合に成立するのに対し,暴行・脅迫を用いて上記行為を行った場合に成立するのが,強制性交等罪です。
 準強制性交等罪と強制性交等罪の法定刑はどちらも「5年以上の有期懲役」です(刑法第178条)。「準」強制性交等罪というと,強制性交等罪より軽いものをイメージされるかもしれませんが,刑罰は強制性交等罪と同じで,刑法上,犯罪としての重さに変わりがない重大犯罪です。泥酔している場合など,心神喪失や抗拒不能に乗じて性行為をするため暴力や脅迫をする必要がないというだけですから,罪の重さは同じなのです。懲役刑のみで,罰金刑がないため,書面のみで罰金といった刑罰が科せられる略式命令で終結する道がなく,もし起訴された場合には公開での法廷で裁判が行われることになります。
 加えて,法定刑が5年以上の懲役ですから,有罪になれば実刑が原則です。示談が成立したなどの特別の事情がない限り,執行猶予はつきません。
 したがって,立件された場合には,起訴される前に示談等の弁護活動により,不起訴を目指すことが重要です。

準強制性交等となるケース

 例えば,飲食店でお酒を飲み,飲酒と眠気の影響により判断力が低下した状態の女性と明け方に性交した場合,準強制性交等の罪は成立するのでしょうか。
 酩酊状態であったか,や睡眠状態であったか,ということだけがポイントなのではなく,あくまでも抵抗することが不可能又は極めて困難な状態といえるほどの酩酊状態にあったかどうかがポイントです。性交前後に,被害者が携帯電話の操作や写真撮影をしていたこと,自らの足で歩いていたこと,自ら衣服を脱いだり着たりできたこと等の行動は抗拒不能を否定する方向に働きます。反対に,酔って寝込んで自分で起き上がることができないこと,自分で衣服を脱いだり着たりできないこと,呂律が回っていなかったり千鳥足になっていたりしたこと等の行動は抗拒不能を肯定する方向に働きます。
 問題は,そうした事実が検察官や裁判官に認定してもらえるかということです。被害者が酒に酔っていた場合,当時の記憶が無かったり,変容していたりすることは珍しくありません。記憶がないことが,合意のない性交をされたという誤解に繋がってしまうケースもあります。その場合,上記のような被害者の意識がはっきりしていたのではないかという事情を被害者は覚えていません。ですから被疑者・被告人がそのような事情を主張しても,裏付ける証拠がなければ,被害者の供述に反するとして認定してもらえないことが多々あるのです。
 いずれにしても様々な事情を総合的に判断しなければなりませんから,専門家である刑事事件に強い弁護士にすぐに相談することをお勧めします。

準強制性交等で逮捕されないために

 当初は警察から事件についての話を聞きたいと言われて呼び出され,任意の取調べに誠実に対応していたとしても,その後逮捕されてしまうことがあります。
 刑事事件に強い弁護士に依頼すると,取調べでの受け答え方法について詳しくアドバイスをもらえるうえ,逮捕や勾留されないための書類も準備してもらえます。被疑者本人の誓約書や親の身元引受書を用意し,逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを警察に伝えて在宅捜査を促すのです。
 場合によっては,取調べには同席できないものの,取調べを受ける当日に弁護士に取り調べが行われる警察署へ同行してもらえることもあります。逮捕の必要性の判断にあたって弁護士がついていることが考慮されることもあります。
 また,逮捕されていない間は任意の取調べである以上,取調べの途中に取調べ室から出て弁護士に直接又は電話等で相談することもできます。
 自白事件の場合には,逮捕を避けつつ,被害者との示談も進めていくことになるので,まずは警察に呼び出された時点で弁護士にご相談ください。

準強制性交等で逮捕されたら

 準強制性交等で逮捕された場合,その翌日または翌々日に検察庁に送致され,検察官の取調べ(弁解録取)を受けます。
 その際,検察官は,被疑者を10日間留置する勾留を裁判所に請求するかどうか決定します。検察官が勾留請求しない場合には即日釈放されますが,検察官が勾留請求すると,被疑者はその日もしくは翌日に裁判所に行き,裁判官の勾留質問を受けます。裁判官が勾留決定をした場合には,検察官が勾留請求した日から数えて10日間,留置施設に留置されることになります。この時,裁判官が勾留請求を却下した場合には,被疑者は釈放されます。
 検察官は,最大20日間の勾留期間のうちに,被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定しなければならず,その決定ができない場合は被疑者を釈放しなければなりません。
 このように,逮捕されるとそれだけで長期間にわたって勾留される可能性があります。勾留を避けたい場合,または勾留されたとしてもできるだけ速やかに身体拘束を解きたい場合には,弁護士による検察官や裁判官に対する意見書提出等の身柄解放活動が必要です。

準強制性交等事件における示談の重要性

 準強制性交等罪は,法改正以前は親告罪(被害者等の告訴権者による告訴がなければ起訴できない犯罪)でしたが,現在は非親告罪です。
 しかし,被害者による被害申告がなければ,捜査機関に事件が発覚するのは困難ですので,事実上は被害者による告訴とまでは言わなくても被害の申告があって初めて立件されることになるでしょう。また,非親告罪になったとはいえ,起訴するか,不起訴とするかの判断にあたり,被害者の処罰感情等は,なお大きな割合で考慮されています。
 法改正後になされた法務省での報告では「検察官としては,制度的な担保を設けず非親告罪化された場合にも,通常は被害者の協力がなければ立証も難しく,被害者が望まなければ起訴をしない方向になると思われる。」とされています。
 なぜなら,準強制性交等罪のような性犯罪は,被害者の性的自由という個人的な法益を守るための規定であり,被害者自身なら刑事裁判による処罰を望まない場合には,公訴提起の必要性は大きく低下するからです。
 したがって,示談を成立させることができれば不起訴を得ることは十分可能と言えます。もっとも,性犯罪の中で極めて重い部類の犯罪ですから,示談金も高額にのぼることが多いです。適正な示談金で速やかに示談を成立させるためには,刑事事件の豊富な経験のある弁護士の力が必要です。

準強制性交等で逮捕されたときに弁護士に依頼するメリット

 準強制性交等罪は,被害者の性的自己決定権を侵害する重大な犯罪です。検察官や裁判官は被害者の処罰感情というものを重視しますから,早期に被害者に謝罪すると共に,示談や賠償をすることが重要です。被害者との示談が成立しなければ,不起訴処分獲得は大変厳しいものになるでしょう。
 しかし,準強制性交等罪の被疑者やその家族が,被害者とされる相手方と直接交渉することは現実的ではありません。被害者は,加害者である被疑者に自分の連絡先を知られたくないのはもちろんのこと,被疑者から直接連絡を受けるのは怖いと思うからです。たとえ被疑者が被害者の連絡先を知っている場合であっても,同様の理由から,被疑者本人が被害者へ直接連絡するということは避けるべきです。
 しかし,被疑者に弁護士がつけば,弁護士が警察や検察官に被害者の連絡先の開示を打診すると,弁護士限りで被害者の連絡先を教えてもらえることがあります。弁護士は,警察や検察官を介して被害者の連絡先を教えてもらった場合,早急に被害者にコンタクトを取り,示談成立を目指します。
 しかし,準強制性交等罪が卑れつな犯罪であることから,被害者の心情に特別な配慮が必要です。そこで,性犯罪に関して豊富な経験と高い専門性を持つ弁護士に依頼することが示談を成功させるための重要な選択肢となります。
 また,示談を成立させるには示談金の支払いが必要です。加害者の立場としてはどうしても交渉が不利になりがちです。しかし,事案によっては加害者を完全には責めきれない事情がある場合もあり,交渉次第で示談金を減額させることは十分可能です。
 被疑者としては,被害者が抗拒不能と言えるまで泥酔していなかった,あるいはそのような状態であることは分からなかったとして,準強制性交等罪の成立を争いたいと考える場合もあります。その場合,起訴されれば,被害者の証人尋問の実施は必至となります。上記のような方針の場合には,被害者側に率直にこちらの考えを伝え,被害者に証人尋問のリスクについて検討の時間を取ってもらいます。そうすることで,被害者としても刑事裁判を避けたいと考え,示談の成立に至るケースが少なくありません。否認事件であっても,示談によって不起訴を狙うことができる可能性があるのです。

まとめ

 準強制性交等罪は,人の尊厳を踏みにじる重大犯罪であり,決して許されるものではありません。しかし,被害者の方に誠意を見せ,少しでもその傷を癒す努力をすることは,被害者の方の心のケアとしても大切です。
 準強制性交等罪で自分が逮捕された場合や,ご家族などが逮捕されてしまった場合には,刑事事件に強い弁護士にご相談ください。

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