性犯罪事件における示談の重要性を解説

 強制性交等,強制わいせつ,痴漢,盗撮など,「性犯罪」と言われる犯罪類型は必ず被害者が存在し,その処罰感情は峻厳で,実刑判決が現実味ある典型的な犯罪類型です。
 一方,性犯罪は,同じ被害者がいる犯罪,殺人や傷害致死とは異なり,示談による実刑回避が可能な犯罪類型でもあります。
 しかも,性犯罪における示談は,その成立タイミングによって結果が大きく左右される犯罪でもあります。簡単に言えば,捜査段階における示談成立は,不起訴,前科がつくことを回避するというメリットをもたらすのに対し,起訴後に示談が成立した場合,単に前科回避を逃したという意味以上に,示談成立でも実刑判決のリスクがあるのです。
 このように,性犯罪では示談がとても重要なのです。

 そこで,今回は,性犯罪の罪名や罰則を取り上げた上で,示談の重要性について,代表弁護士・中村勉が解説いたします。

性犯罪とされる罪名と罰則

 性犯罪とされる罪は多々ありますが,今回は代表的な4つの罪について解説します。

盗撮

 盗撮は刑法犯ではなく,刑法に「盗撮罪」という罪は規定されておりません。
 しかし,盗撮は各都道府県の迷惑防止条例違反として処罰されます。
 そのため,盗撮は都道府県によって適用される条文が変わってきますが,文言の多少の違いはあるものの,そこまで大きな違いはありません。法定刑も大きな違いはなく,「6月以下の懲役又は50万円以下」か「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となっていることがほとんどです。罰金の上限が50万円と100万円では大きな差が大きいようにもみえるかもしれませんが,50万円を超える罰金刑はあまりなく,初犯の場合,30万円程度の罰金刑となることが多いので, 結局のところ,さほど大きな違いはありません。

痴漢

 痴漢は刑法犯ではなく,刑法に「痴漢罪」という罪は規定されておりません。
 しかし,痴漢は盗撮と同じように各都道府県の迷惑防止条例違反として処罰されます。
 そのため,盗撮と同じく,都道府県によって適用される条文が変わってきますが,痴漢の場合もはやり条文の文言に大きな違いはなく,法定刑が「6月以下の懲役又は50 万円以下」か「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と規定されていることがほとんどであるものの,30万円程度の罰金刑となることが多いという点も盗撮と同様です。
 ただし,痴漢は盗撮と異なり,被害者に直接触るタイプの犯罪になるため,程度によっては刑法犯である強制わいせつになることもあります。

強制わいせつ

 強制わいせつは刑法176条に規定されています。

刑法第176条(強制わいせつ)

 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

 ポイントは,「13歳」「暴行又は脅迫」「わいせつな行為」の3語です。順番に見ていきましょう。
 まず,「13歳」について見ていきます。「13歳以上の者」に対しては,「暴行又は脅迫」という文言が要件になっているのに対して,「13歳未満の者」については,「暴行又は脅迫」という文言がなく,「わいせつな行為をした者も同様」とあります。つまり,被害者の年齢が13歳以上か未満かによって,「暴行又は脅迫」の要否が変わるのです。
 次に,「暴行又は脅迫」について見ていきます。「暴行」とは,身体に対する不法な有形力の行使をいい,被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度の暴行であれば足ります。「脅迫」とは,害悪の告知のことをいい,どの程度の脅迫が必要なのかは争いがありますが,わいせつ行為が接触行為であればそれ自体暴行と解釈できるので,脅迫の程度が問題になることはあまりありません(条解刑法第3版)。
 最後に,「わいせつな行為」について見ていきます。「わいせつ」とは,判例上,「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」をいいます(最大判昭和32年3月13日刑集11-3-997)。具体的には,陰部に手を触れたり,手指で弄んだり,自己の陰部を押し当てることや,女性の乳房を弄ぶことなどが挙げられます。陰部や乳房を着衣の上から触れた場合については,単に触れるだけでは足りず,着衣の上からでも弄んだといえるような態様が必要です(条解刑法第3版)。ただし,そこまではいえないと判断されても,先ほど挙げた痴漢として,条例違反になる可能性は十分にあります。
 法定刑は「6月以上10年以下の懲役」とされており,先ほど挙げた条例違反と比較すると,年数の上限が非常に長くなっており,しかも,罰金刑の余地がないことからわかるとおり,格段に重くなっています。

強制性交等

 強制性交等は,2017年までは「強姦」と呼ばれていた罪であり,刑法177条に規定されています。

刑法第177条(強制性交等)

 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

 ポイントは,「13歳」「暴行又は脅迫」「性交等」の3語です。順番に見ていきましょう。
 まず,「13歳」について見ていきます。「13歳以上の者」に対しては,「暴行又は脅迫」という文言が要件になっているのに対して,「13歳未満の者」については,「暴行又は脅迫」という文言がなく,「性交等をした者も同様」とあります。つまり,先ほど挙げた強制わいせつと同様に,被害者の年齢が13歳以上か未満かによって,「暴行又は脅迫」の要否が変わるのです。
 次に,「暴行又は脅迫」について見ていきます。これも先ほど挙げた強制わいせつにもあった文言ですが,反抗を著しく困難にする程度である必要があるとされており(最判昭和24年5月10日刑集3-6-171),強制わいせつに比べると強い程度のものが必要になります。
 最後に,「性交等」について見ていきます。これは条文の文言からわかるとおり,「性交、肛門性交又は口腔性交」を総称して「性交等」としています。この点,2017年の法改正前の強姦罪では「姦淫」という言葉を使っており,また,その対象は「女子」に限定されていました。しかし,肛門性交,口腔性交についても性交と同様に扱われるようになり,また,被害者も男女両方に拡大したことがポイントです。
 法定刑は「5年以上の有期懲役」とされています。先ほど,強制わいせつが条例違反と比較して格段に重くなっていることについて取り上げましたが,下限が5年以上であり,原則執行猶予を付けることができないことから,さらに一段と重くなっていることがわかります。

性犯罪における示談の重要性

 今回は性犯罪の中でも代表的な4つの罪について取り上げましたが,これだけでも内容によって罪の重さに差があることがわかります。そして,条例違反にとどまらず,強制わいせつ,強制性交等 のレベルになると,懲役刑の可能性がある非常に重い罪になってくることがわかります。
 ただし,検挙されたとしても,全員が懲役刑を言い渡されているわけではありません。日本の刑事裁判の有罪率が99%以上というのは有名ですが,実は不起訴の割合が高く,そもそも裁判にならなかったという事件が多いのです。
 近年の動向を見ると,強制わいせつの起訴率は2020年で33.9%,強制性交等の起訴率は37.0%となっており,3人に1人程度しか起訴されていないことがわかります(出典: 検察統計調査 検察統計 被疑事件の罪名別起訴人員,不起訴人員及び起訴率の累年比較)。その理由は,性犯罪は客観証拠が残りにくく,立証が難しいということももちろんありますが,起訴前に示談ができれば不起訴になる可能性が高いことも挙げられます。
 例えば,同じ統計を見ると,2020年でわいせつ・わいせつ文書頒布等の起訴率は60.4%と高いことがわかります。わいせつ物頒布も性犯罪の一種ではありますが,これは社会的法益としての健全な性風俗あるいは公衆の性的感情を保護法益とするものであり,個人の性的自由を保護法益とする強制わいせつや強制性交等とはそもそも罪の性質が大きく違います。つまり,社会的法益を保護法益とする罪は,特定の個人が被害者とはいえないので,示談による解決になじまず,不起訴にすることが難しい一方で,個人に対する罪は被害者が個人に限られており,示談による解決になじむので,当事者同士の示談で解決すれば国家が刑罰を科す必要はないと判断される可能性が高いのです。
 したがって,性犯罪で検挙された場合は,何よりも起訴前に示談を成立させることが重要です。起訴後に示談しても,一度裁判になってしまえば,執行猶予の可能性は上がるものの,起訴が取り下げられることにはなりません。早期の対応が不可欠です。
 しかし,自分で示談交渉することには様々な困難が伴います。それは,逮捕・勾留されておらず,自分で動くことができる在宅事件の場合でも同様です。
 被害者の連絡先がわからない場合,警察官や検察官を通じて聞くことになりますが,教えてもらえることはほとんど期待できません。被害者の同意なく勝手に連絡先を教えることはできませんし,被害者も加害者本人に連絡先を教えてよいと同意することは考えられません。
 仮に被害者の連絡先を知っていたとしても,被害者は警察に被害申告している時点で被害感情は強く,加害者本人と冷静な話し合いができる状態であることは期待できません。仮に話し合い自体はできたとしても,示談を円満に成立させることには難しく,しかも,一回交渉が決裂してしまうと再度話し合いをすることはそこから弁護士を付けたとしても難しくなるでしょう。

 したがって,性犯罪で検挙された場合,示談成立のためには,自分でやみくもに行動するのではなく,早期の段階で弁護士に相談することが非常に重要です。もし自分は犯罪行為などしていないから示談交渉は不要と思われる場合も,それを信用してもらうためには法的アドバイスが不可欠ですので,同様に早期の段階で弁護士に相談することが非常に重要です。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。今回は,性犯罪事件の罰則の重さ,示談の重要性,そして早期に弁護士に相談する重要性について,ポイントがおわかりいただけましたら幸いです。少しでもお困りの方,ご心配の方は,お気軽にお問い合わせください。刑事事件に強い弁護士があなたの個別具体的事情に即した最善策を提案します。